事業承継を考えたとき、経営者保証(個人保証)が
どうなるのか悩んでいませんか。
後継者が経営者保証なしで融資を受けられるのか、
旧経営者の保証を解除するにはどうすればよいのか
など知りたくありませんか。
実は「経営者保証に関するガイドライン」を
活用することによって事業承継時の
経営者保証を解除することが可能になります。
ガイドラインでは事業承継時に保証契約の見直し等の対応が
金融機関に求められているので経営者保証の解除を
打診することをおすすめします。
実際に「経営者保証に関するガイドライン」を活用して
事業承継時に経営者保証を解除した事例が報告されています。
(この記事では、経営者保証解除の事例についても紹介しています。)
それでは次の順番で説明していきます。
- 事業承継時の中小企業・旧経営者・後継者の対応方法
- 事業承継時の金融機関の対応方法
- 経営者保証に関するガイドラインの事業承継時の活用事例
事業承継時の中小企業・旧経営者・後継者の対応方法
事業承継時に経営者保証を解錠するためには
次の3つの要件を満たすことが必要になります。
先ずこの要件を満たしているか確認しましょう。
法人個人の一体性の解消
法人と経営者個人の資産経理が明確に分離されていること
法人と経営者の間の資金のやりとりが、社会通念上適切な範囲を超えないこと。
財務基盤の強化
法人のみの資産・収益力で借入返済が可能と判断できること。
財務状況の適時適切な情報開示
法人から適時適切に財務情報等が提供されていること。
以上のことが現在から将来にわたり見込まれることが求められます。
さらに上記3つの要件の他に次のような
経営状況であれば、事業承継時に旧経営者の
保証が解除され易くなります。
- 旧経営者は実質的な経営権・支配権を有しないことを金融機関に示すこと
- 代表者・取締役等の退任 支配株主でなくなること 役員報酬の調整(報酬を受け取らない)
- 旧経営者の法人からの借入金を返済すること
- 法人の資産・収益力では既存債権の回収に金融機関が懸念をもっている場合
必要に応じ旧経営者・後継者から金融機関に対し保全資産を提供すること
旧経営者が実質的に経営に関与しないということが重要です。
事業承継時に経営方針、事業計画等の変更があればを報告する
事業承継時に経営方針・事業計画等に変更している場合は、
変更内容が金融機関の経営者保証解除の重要な判断情報になります。
金融機関から情報開示が求められた時は、経営方針・事業計画等の変更について
より誠実かつ丁寧に説明を行うことが経営者保証に関するガイドラインでは
求められています。
事業承継時に経営者が交代すれば経営方針・事業計画等は
大きく変更されることが多くあるので金融機関が求める前に
積極的に開示をすすめ金融機関との信頼関係を構築しましょう。
事業承継時の金融機関の対応方法
「経営者保証に関するガイドライン」において
金融機関は経営者保証に依存しない融資の一層の促進が
求められています。
事業承継時に、中小企業・旧経営者・後継者から
必要な情報開示を受け経営者保証の適否
を判断しなければなりません。
具体的には次のような対応が求められます。
- 旧経営者の保証債務を当然に後継者に引き継がせるのではなく
経営者保証を求めない可能性や代替的な融資手法の活用可能性を
あらためて検討すること。
- 旧経営者の保証契約の解除について旧経営者の実質的な経営権の有無、
債権の保全状況、法人の資産・収益力による借入返済能力などを
勘案して、経営者保証の必要性等を適切に判断すること。
前経営者・後継者から必要な情報を勘案し経営者保証に依存しない融資を検討する場合
- 後継者の保証を求めない
- 旧経営者の保証契約を解除する
- 保証に代わる融資手法の活用する
必要な情報を勘案し旧経営者・後継者に保証を求めることが止むを得ない場合
- 経営者保証の必要性や解除のためにどのような改善が必要かなどを
丁寧かつ具体的に説明しなければならない。 - 形式的な旧経営者の保証債務を承継させるのではなく
開示された除法に基づき適切な保証金額を設定しなければならない。
経営者保証が解除できた事例
事業承継時に経営者保証を解除できた2つの事例をあげておきます。
あなたの会社の状況を判断する事例として参考にしてください。
今回紹介する事例は、金融庁の「経営者保証に関するガイドライン」の活用に
係る参考事例集より抜粋しています。
参照:金融庁「経営者保証に関するガイドライン」の活用に係る参考事例集【令和元年8月改訂版】
経営者保証が解除できた事例①
- A社
生産ラインに用いるステンレスタンク、薬品・接着剤等の定量排出装置などを製造する企業。
取引先は900社を超え業種や販売先が分散され業績は堅調に推移している。
資金調達は長期運転資金中心から短期継続融資に移行し試算表等のよるモニタリングを継続する。
法人・経営者との関係の明確な区分・分離がなされておらずガイドラインの要件を充足していない。
経営者の交代に伴い、旧経営者の保証解除および新経営者からの保証を求めない対応の要請をした。
- B銀行
経営者保証に関するガイドラインについて改めて説明する。
法人と経営者との関係の明確な区分・分離がなされておらず、ガイドラインの要件を
満たしていない旨説明する。
法人・個人の一体性の解消に向けた取り組みについて確認したところ
旧経営者への貸付金は清算予定であり、新経営者への貸付金は、一括返済は困難であるため
毎年一定額を返済することで法人・個人の一体性の解消を図っていく方針である旨説明を受けた。
以下のような点を勘案し、旧経営者の保証を解除し、新経営者からの保証を
求めないこととした。
- 上記の法人・個人の一体性の解消に向けた取り組みを踏まえ、今後、法人から
経営者への貸付金の清算が見込まれること - 事業基盤が盤石で業績も堅調であり、法人のみの資産・収益力で借入金の返済が
十分可能と見込まれること適時適正に財務情報の開示を受けており、良好なリレーションシップが構築できること
経営者保証が解除できた事例②
- C社
C社は72年の業歴を有する農業土木建設業者です。
現在の借入は、短期貸付金枠260百万円、支払承認枠100百万円が許容されている。
代表者の高齢化に伴い事業承継を実施し、副社長を新代表に、代表を会長(代表権なし)に
各々変更するにあたり、旧代表の保証を解除するとともに、新代表からは保証を求めず
無保証人扱いに変更された。
- D銀行
C社は実質無借金経営で高各付け、財務内容も良好である。
昨年、事業性評価を実施し当社の企業概況や課題事項等について認識を共有するなど
適切なリレーションシップが構築されている。
事業承継についても経営課題として認識を共有していた。
上記内容を踏まえてD銀行はC社の無保証人扱いへの変更を
検討していたところ、C社より事業承継に伴う代表者変更の申出があり、
D銀行側は、事業承継を機に、無保証人扱いを提案した。
ガイドライン項目については、
- 「①法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されていること」
- 「③法人から、決算報告以外の試算表や資金繰り表等が適時適切に提供されている」
の2項目が充足されていない状況であったが、事業性評価による十分な
内容調査(SWOT分析、知名度、技術力など)およびディスカッションを
通じて無保証人扱いを許容できると取引先と判断し、
旧経営者の連帯保証を解除するとともに、新経営者からは保証を求めなかった。
事例からわかること
業績が堅調で財務内容が良好であると他の要件が充足されていなくても
金融機関の判断でかなり高い確率で経営者保証の解除に応じてもらえる可能性がある。
具体的には借入金が一括返済できる現預金・資産の保有と毎期安定した
利益・キャツシュフローが見込めることと言えますが
要件をすべて充足することができない場合でも経営者保証の解除を
申し入れ金融機関の対応を確認することが重要です。
申入れをして解除に応じてもらえない場合であっても
金融機関から解除できない理由を聞くことができます。
解除できない理由を解消することにより将来的には
経営者保証の解除が実現できるようになります。
財務・業績の健全性が大切ですが、地道な経営・財務情報の開示や
金融機関とのリレーションシップの構築が重要になります。
まとめ
事業承継時に経営者保証(個人保証)を解除する方法として
「経営者保証に関するガイドライン」
をしっかり活用することがあげられます。
ガイドラインには法的拘束力はありませんが、主たる債務者、保証人および対象債権者
により遵守されることが求められていることを考えると実質的には
今後守るべきルールとして定着していくと思います。
ガイドラインの記載されている以下の3つの要件は
経営者保証を解錠するためには必須となりますので
しっかり内容理解して対応しましょう。
- 法人個人の一体性の解消
- 財務基盤の強化
- 財務状況の適時適切な情報開示
さらに
- 旧経営者は実質的な経営権・支配権を有しないことを金融機関に示すこと
- 代表者・取締役等の退任 支配株主でなくなること 役員報酬の調整(報酬を受け取らない)
- 旧経営者の法人からの借入金を返済すること
- 法人の資産・収益力では既存債権の回収に金融機関が懸念をもっている場合
- 必要に応じ旧経営者・後継者から金融機関に対し保全資産を提供すること
などが実施されていると経営者保証解除の可能性は高まります。
中小企業の事業承継時に、経営者保証(個人保証)を解除するためには
法人と経営者個人の資金や経理・会計が区分され
財務内容がしっかりしていてリアルタイムで会社の経営状態がわかる情報提供が
できる経営状況にあるということです。
ガイドラインに記載されていることはあたりまえのことですが
中小企業の場合、要件を満たさない会社も多く存在します。
実際に多くの中小企業では完全に要件を満たすことが難しい部分が
ありますがぜひ努力してみてください。
可能であれば経営者保証のない銀行のプロパー融資を受けらることが理想です。
日々の小さな努力が大切です。
頑張りましょう。
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